昨日、陽光の箱根にドライブに出かけた際の目的が、箱根ラリック美術館に保管されているオリエント急行の客車でティータイムを楽しむことでした。無事念願を果たしたので、興奮冷めやらぬ内に記録に残しておこうと思います。
箱根ラリック美術館は東名高速御殿場ICから20分ほどの距離で、閑静な森の中にあります。館内の森にはウグイスがさえずっており、瀟洒な建物と相まって、透明感溢れるラリックの作品群を静かな気持ちで楽しむことができる大人向けの観光スポットです。
この館内に貴重な車両が保管されており、車内でティータイムが楽しめるのです。
箱根ラリック美術館
http://www.lalique-museum.com/
入場料は大人1500円です。公式ページ内の割引券を持参すると一人100円引きになりました。その他にも各種の割引制度があるようです。
入場券を購入して入ると、左側のレストランの入り口と同じ位置に、特別展示の「LE TRAIN(ル・トラン)」の受付があります。
車両の見物は予約制で45分間のツアー形式です。ラリックが製作した優美なガラスパネルを眺めながらティータイムを過ごすことができます。
料金は2100円です。
10時から16時までの一時間毎で、朝早く入館した我々は余裕で10時の予約が取れましたが、午後からは混んできた様で、ずっと20名の定員満席での発車となっていたようです。
予約時間までは車体の傍に近づくことができません。
車内に飾られているラリックのレリーフと同じ装飾パネルのある待合室で待つことになります。
中には入れませんが、入り口から車両を覗いてみることはできます。
ヨーロッパ調の低いプラットフォームを模したホームに沿って、オリエント急行のプルマン・カーWSP No.4158が静かに置かれているのを見ることができます。ガラスが多用された明るい建物の中、非常に良い状態で保存されています。美術館の中の多くのラリック作品と同様、宝物のように扱われています。
この車両こそ、1988年にフジテレビの企画にて日本にやってきた「オリエントエクスプレス'88」の車両の一つなのです。
ヨーロッパで働いていた頃そのままの状態で運ばれてきたとの事で、生きた車両の香りが充満しています。
多分、ブレーキやオイル、内外装の素材の香りや長年の乗客の体臭などが入り混じっているのでしょう。目を閉じると、ヨーロッパのターミナル駅にやってきたかのような錯覚に陥ります。
88年秋からにユーラシア大陸を横断して日本一周を果たした後、ヨーロッパに帰ったこの車両は、保有会社のイントラフルーク社の倒産のためにオーナーを転々とします。
その度に各部分が改造され、特に側面の窓ガラスは、1,3,5,7枚目の上部に優美な小窓が付けられていたのが、改造されて一つの大窓になってしまっています。とはいえ、全体として1929年の建造当時のアールデコ調の雰囲気はそのまま残されています。
隣のレストランとはガラス壁で仕切られているだけなので、食事をしながらもこの車両の外装を眺めることができます。
非常に明るい自然光の下で、珠玉の車両が美しく佇んでいます。車両の香りと相まって、このままホームを滑り出して行きそうな感じがします。
予約チケットはこちら。
時間になると改札が始まり、このチケットに鋏を入れてくれます。良い演出です。でも改札鋏って日本のものですよね・・・。
係の方は、乗務員の制服を着用されていて、雰囲気はバッチリです。本当にオリエント急行に乗車するような気分にさせてくれます。
改札を入っても、すぐには乗車させてもらえません。あくまで見学ツアーなのです。
まずは、写真左側のビデオブースでラリックとオリエント急行車両との関わりや、この車両を箱根の山まで運搬してきた際の物語を見ることになります。
ラリック美術館は箱根の仙石原にあります。沼津港で上陸してから一晩中かけて山道を登ってきたとの事。御殿場からの乙女峠のつづら折りの通過には非常に神経を遣ったことでしょう。
ビデオを見ていても、車両が隣にあるので気はそぞろ・・・。
内外装は掃除はしたものの、塗装はそのままなので、1929年製というこの車両の年輪を感じることができます。随所に錆が浮いています。
約10分間のビデオが終わってようやく乗車です。
車両の横腹を眺めながら、プラットフォームの奥まで歩きます。
サイドボードもヨーロッパの時のままです。イントラフルーク社の「ノスタルジー・イスタンブール・オリエント・エクスプレス」の文字が見えます。
車両の中間部分には、ワゴン・リ社の紋章が光ります。
この車両は8年前まで現役で、ヨーロッパ各地をイベント列車として走っていたそうです。ティータイムを楽しむサロン・カーとして使用されました。
入り口ドアには、ヨーロッパの低いホームから車両に乗り込む際に使用するステップが付いています。
1988年に日本にやってきた時には、このステップが地上構造物に抵触するために切除されたとの記載を当時見ましたが、どうやらボルトで脱着できる構造になっているようです。
「1st CLASS PULLMAN」の文字が鮮やかに映えます。
この車両はツートンカラーなので、濃紺の寝台車の間に挟まれていて一際映えるアクセント的な存在でした。
乗車口は、車端の連結部分です。車両ドアから入れるわけではありません。
その代わり、細身の車椅子なら通れそうなので、実際のオリエント急行に乗りたくても乗れない足のご不自由な方も、ここなら乗車体験できそうです。但し、確認したわけではありませんので、真偽の程は分りません。もし必要の際にはラリック美術館にお問い合わせください。
楕円形の明り取りの窓が美しい。
このまま車内を撮影したいものですが、内部は撮影禁止です。乗り込む前に、カメラをカバンに仕舞います。
車内は前後にコンパートメント、そして中央部は二つにパーテーションで分けられています。向かい合わせに4人席と2人席があります。クッションに椰子が使われていると思われる椅子の座り心地はしっとりとしていて良好です。モケットは88年当時のベージュ一色のものから張り替えられていて、落ち着いた花柄になっていました。
ここで簡単な説明があった後、ティータイムです。
飲み物は予約時に、コーヒー、紅茶、ハーブティーから選べます。今日のお菓子はココナッツとバナナのガトー。上の小皿はソースとして使用するローズのジャム、マンゴーのペースト、シナモンシュガーです。コーヒー、紅茶とも、たっぷり3杯分あります。
車内で使用するカップやポット、コーヒーや紅茶は入り口で購入することができます。
尚、館内の他のミュージアムショップではオリエント急行関連品は販売されていません。もっと扱って欲しい、などと思うのは鉄道ファンだけなのでしょうか。
ティータイムセットは7000円、銀のティーポットは6500円、コーヒーポットは8500円です。これで自宅でオリエント急行気分が味わえます。
インド産紅茶は1200円、コーヒーは900円、そしてローズジャムは1200円です。ジャムを二つ、お土産に購入しました。
ディスプレイ用の非売品ですが、販売品の実本棚の上に、オリエントエクスプレス'88の頃にスポンサーであった日立が製作して配布したプルマン・カーのHOゲージ模型が置いてありました。数多く作られたので今でも結構あちこちで見かけます。模型の出来としてはナニですが、同じ車両の本物が飾ってある場所に設置してあると、非常に貴重なものに見えます。
内部調度品の撮影は出来ないので、瞼と記憶に焼き付けます。
ラリックの手がけた作品として、壁の随所に装飾パネルがあります。天井のランプシェードもラリックの作品です。車内は程よく空調が効いていて快適です。
木製の内装は、豪華絢爛というよりは、歴史と伝統の重みを感じるゆったりとした車内です。各席に、乗務員呼出し用のボタンがあったのが印象的です。窓の開け閉めも、乗客自らではなく、乗務員を呼んでやってもらっていたとの事です。
30分ほどのティータイムはあっという間に過ぎ、「間もなく終点イスタンブールでございます」という乗務員の演出の利いたアナウンスを聞きつつ、下車します。
側面にはNo.4158の文字。日本に再来日を果たし、そこが永住の地になったということです。台車はヨーロッパで使用されていた標準軌のイコライザー台車です。
車内ではこの車両にまつわる話をたくさん聞けます。
もちろん、88年当時に日本にやってきたときの話もしてくれます。
この車両を含めたオリエント急行が日本にやってきたのは1988年つまり昭和63年の秋。そう昭和天皇がご体調を崩されていた時分なので、派手な宣伝はされなかったとの事。
当時は井上陽水が出演していた日産セフィーロの「みなさんおげんきですか」のセリフも、お元気でない天皇陛下に配慮して取りやめになったほど。豪華列車での贅沢旅行を派手に告知するご時勢ではなかったのでしょう。ただ何と言ってもバブル景気真っ只中。日本1周80万円余というチケットも抽選で入手しなければならなかったとの事です。

下車後は、係員にお願いすれば記念写真を撮ってくれます。
我々夫婦も車両をバックに撮ってもらいました。画像をうまく切り抜けば、本当にヨーロッパでオリエント急行に乗車した時の記念写真のように見えるかもしれません。
車内に使用されている装飾パネルと同じものが改札前に飾られています。ガラスの奥には水銀が塗られていて、渋い陰影を見せています。これと同じようなパネルが車内随所に150枚以上使用されています。
装飾パネルの案内板です。
このパネルの正規ライセンスのレプリカがミュージアムショップで販売されていましたが、3つ組の内の一つだけで価格は60万円!それでも車両に使用されている本物とは存在感に天と地の差があります。
美術館に入るときには気が付かなかったのですが、駐車場からこの車両が覗けるようになっています。
車両内から駐車場のマイカーのBMWが見えたので気が付いた次第です。
走ることの無いオリエント急行は、箱根の風景を車窓に映し、静かに余生を送ることでしょう。静態保存された車両の中でも特に幸せな環境に思えます。
この車両内でのひと時は、また近い内に体験したくなります。予約は美術館に行ってからしか受け付けてくれませんので、次回も空いている午前中に行きたいものです。係の方の振る舞いやサービスに神経が行き届いており、乗客の気分を盛り上げてくれます。
繰り返しますが、ここはラリックの作品群を静かな気持ちで楽しむことができる大人向けの観光スポットです。
我が家のプルマン・カーWSP No.4158です。大きさは150分の1です。KATOのオリエントエクスプレス'88の基本セットの中に入っている一両です。
昨日見てきた本物と同じものですが、やはり88年当時は側窓の奇数枚目の上部に小窓があることがわかります。その他は、ほぼ現在の姿と同等です。
KATOもよくこんなニッチな車両模型を製造したものだと思いますが、現在ではほとんど店頭から消えてしまったので、製造分はすっかり売り切ってしまったのだと思います。
サボの表記が少し異なりますが、他はほとんど一緒です。
全く似合わないことを承知の上で、「昭和の鉄道模型をつくる」のレイアウトに置いて見ます。
この車両は全長が長いので、急カーブのこのレイアウト上は走行できません。踏切付近に設置してみただけです。
線路に通電すると、この車両はテーブルのランプシェードが発光します。
昭和の日本の光景に全くそぐわない優雅さですが、きっと21年前の日本でもこんな光景が見られたことでしょう。
いつか、本物のオリエント急行に乗って旅行することを夢見つつ、アンマッチな光景を眺めながら、今夜は赤ワインでも飲んで擬似乗車気分を味わいたいと思います。
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